包帯男と痣女

※人によってはグロいと思うかも・・・

 

「・・・あ、・・・ぐ、・・っ」
耳に心地よい彼女の呻き。
これだからいつまでたってもやめられない。
彼女の首を絞める僕の手にゆるゆると手が添えられた。
「苦しいの?」
そう訊けば必ず頭を小さく横に振る。
それを見てからぱっと手を放した。
彼女は背中を丸めて激しく咳き込んでいる。
「愛してるよ」
そう言えば彼女も、決して美しい表情ではないけれど
「わたしも、愛してる」
と笑うのだ。
そして次は彼女の番。
突き飛ばされて、柱に頭を打つ。
くらくらと頭を回していると胸を蹴られ、先ほどの彼女のように咳き込む。
彼女は「愛してる愛してる愛してる」と繰り返す。
そんな暴力も十数分で終わる。
ボロボロになりながらもまだ息をしている僕を見て、
「またダメだったね」
と彼女は言った。
これらは全部いつもと同じ。何ら変わりはない。
彼女の首には手の形の痣が残り、
僕は全身を彼女に包帯でぐるぐる巻きにされる。



そう、コレは恋人同士のちょっとしたお遊びだった。
よくバカップルと呼ばれる類の人達が
「愛してる」「私のほうがもっと愛してる」「オレの方がもっと愛してる」
と繰り返しているのと全く同じだった。
僕らは簡単。互いに殺し合って、生き残った方が相手の事をより愛している。
という内容だった。
だから互いに愛を表現する為に
僕は彼女の首を絞めた。
彼女は僕に暴力を振るった。
ルールは、毎日夜にじゃんけんをする。
勝ったほうが先攻で、相手を殺しにかかる。
「殺せない」と思ったらそこでやめ。
それを一年ぐらい前から繰り返してきた。



「愛してる。おやすみ」
彼女が僕の手当てを終えると互いに抱きしめあってキスをする。
そして僕は彼女の家を出た。

夜の閑散とした町を歩きながら
「今日も殺せなかった」と思う。
殺せないって事は二人の愛が等しく、つりあっているのだけど
最大に愛し合っているわけじゃない。
本当に愛しているのに、この上なく愛しているのに、
最大限に愛しているわけじゃない事が僕達にとっては悔しいのだ。
だから「明日こそはきっと殺す」といつも覚悟を決めて帰る。
しかし、今日は「明日は彼女を殺す」と決意を改めた。

「・・・っ、・・・、ぁ」
明らかにいつもと違ったいた。
彼女の首を折らんばかりに力を込めて締め上げていた。
彼女の手はビクビクと痙攣していていかにも苦しそうだ。
しだいに痙攣が小さくなるのを見て
死が近い事を確信し自然と口角が上がった。
僕の愛が最大になる。それがただ嬉しかった。
「愛してる」
それがスイッチだったかのように
彼女は一度大きく痙攣するとそれきり動かなかった。
手を放しても咳き込まず、どさりと倒れた。
「愛してるよ」と言っても
「わたしも、愛してる」とは笑わなかった。
彼女への愛が最大になってこんなに嬉しいのに
こんなにも空虚だ。
そこから愛しさとか、苦しさとか、歓喜とか、絶望とか…
何にもないのに溢れて零れた。
もう彼女は僕を愛してはくれないし、愛も示してくれない。
首を絞めると苦しそうに、嬉しそうにする彼女が好きだったし
殴ったり蹴ったりしながら「愛してる」と繰り返してくれる彼女が好きだった。
「愛してるよ、」
(わたしも、愛してる)
「愛して、いたんだ・・・」

─ どっちが狂ってたかなんて 始めから分かっていた。 ─

お題は【ヤンデレ】で短編。暗すぎるorz