そこは周囲に『庭園』と呼ばれていた。
豪奢な門はまるで庭園のアーチで、広大な庭に色とりどりの花、大きなサンルームの中には一面のバラが育っている。周囲の人に庭園を彷彿とさせるのも無理はなかった。
しかし、そこは紛れもない私立学校だ。煉瓦造りのゴシックのような校舎二棟に、小さな教会が一つ。更に寮も存在する。初等部、中等部、高等部で編成され、男女は校舎ごとに分けられている。
生徒の多くは寮生活だが、一部は家から徒歩で通っている。なぜ多くが寮生活かというと、『庭園』は山の中に建っているからだ。
『庭園』のある村では、町で出した手紙が、町の中なら2日で届くところを7日もかかる。門を一歩出れば無理やり拓かれた山道がある。山道には光が入らず、寮生の間では、夜の森に魔女が居るなどの噂で恐れられているほど山の奥深くだ。だから『庭園』のような学校に家から通えるのは、自然田舎の地主しかいない。だから一部に限られるのだ。
また、全寮制にしない所、私立といえど『庭園』がたいした学校でないのが分かる。生徒を見ればよく分かるが、勉学に励む者もいれば、非行に走る者、はたまた単に家から遠ざけられて来た者までいる。要するにピンからキリまでいるのだ。
『庭園』の四季は美しい。気候は一年を通して涼しく、春になれば庭の花が一斉に花を咲かせ、夏は木陰に生徒がにぎわい、秋は木々が色づき、冬は銀世界が庭に広がる。『庭園』はそういう意味では生徒を楽しませた。
そういう意味と断ったのは、生徒の多くが『庭園』での生活に不満を抱いていたからだ。先のとおり、『庭園』の生徒は寮生活を強いられている。よって、家族に会うのは難しいからだ。夏休みと冬休みに1度づつしか外出は許されていない。外出届を出せばいつでも会いに行けるのだが、中等部にもなると「外出届を出してまで家族に会いに行くのは子供だ」という考えが生まれ、子供たちは自分で作った見えない檻に閉じ込められてしまったのだ。
そしてしだいに彼らは『庭園』を皮肉って『箱庭』と呼ぶようになった。
中等部では、恒例行事のように毎年決まった時期にある運動を起こす。彼らはそれを自ら”箱庭運動”と称す。”箱庭運動”とは、実家に帰る予定のある寮生が『箱庭』に閉じこもって出ないという簡単な運動だ。
夏休みと冬休みの1度づつの帰省許可に初めは乗り気でいるも、日が近付くにつれて行きたがらなくなる。
思春期の彼らには、年に数回しか会わない親を肉親と認める事が難しいのだ。だから会う事を極端に恐れ、極端に避ける。実感できない親に会うよりも、ずっと暮らしてきた『箱庭』で臆病にも閉じこもる事を選ぶ。
『箱庭』を箱庭たらしめるそういった要因は、子供たちの心に大きく由来する。
『箱庭』はいつも微妙なバランスで成り立っていて、いつ崩壊してもおかしくない。それが『箱庭』の実態で事実。外から見た『庭園』と『箱庭』の大きな食い違いだった。
ブログでやり始めた連載小説です。
毎週の土・日あたりを更新日に予定しています。毎回短いです。
管理人の都合でいきなり休載の可能性ありです;
時間ができ次第こちらにも載せていこうと思ってます。